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ホテルワカマツ|昭和を偲ぶ旅情…最果てを旅する男の悲しみを背中で語る味のある宿

最初に説明しておくが、ホテルワカマツは新しいホテルで快適にステイ! なんて旅行にむいたホテルではないことは確かだ。年季の入った施設。どこか暗い館内。入った途端に出迎える剥製。まるでタイムスリップしたかのような感覚を覚える。昭和の面影を変わらずに現代に伝える、情緒あふれるお宿。それがホテルワカマツなのだ。

熊や鹿の剥製であれば、北海道内のホテルや観光地であればよく見るが、海獣類の剥製なんて、博物館でしか見る機会はないのではなかろうか? ホテルに足を踏み入れた途端に視界に入るこの先住民たちにいささか戸惑いを覚えながらもチェックアウトを済ませる。

ふと、剥製のどこかに隠されたスイッチでも付いているのではないかと、好奇心に溢れた思いが頭をよぎる。隠された扉。隠された通路。そんなものがあったら、面白いのだが。

館内の明かりが足りず、どうしても薄惚けた写真しか取れなかったのだが、なんとも味のあるポスターが館内の通路を飾る。近畿日本ツーリストの年代物のポスター。一瞥しただけでは絵なのか、はたまた写真なのか判断がつかない色合い。そして極めつけはエアーニッポン(ANK)。元の日本近距離航空がエアーニッポンに社名変更した時のものじゃないか…。1987年のことだ。昭和62年。昭和の終期から平成にかけての雰囲気というのは、どうも郷愁を誘うものだ。自分が昭和59年生まれということもあり、おそらくそんな気分にさせるのだろう。この昭和を生き平成を耐え令和に足を踏み入れたこの宿にとってはなんの変哲もない日常の前で、ついつい数分間足を止めてしまった自分に驚く。

「いい夢を。いい宿で。」 これはJTB協定旅館ホテル連盟のポスターだ。『旅ホ連』として現在に至っているのも感慨深いのかもしれない。

恐る恐る階段を登っていく。共同の洗面所とトイレがある。館内の静寂に階段の軋む音が響く度に、なぜか不安が煽られる。

そして辿り着いた客室。ここで一つ後悔した。ワンカップの日本酒とスルメでも買ってこればよかった。なんだか無性に悪酔いしたくなる…。そんな風情だ。

複雑な想いに駆られながら一泊。簡素だが確実においしい朝食。さすが鮭のまち標津だ。焼き鮭一つとっても絶妙の塩加減。おそらく自家製の筋子も白米に乗せて食べると幸せな気分に浸ることができた。

 

改めて言いたい。

ここは、安易な観光目的の安宿として足を踏み入れるべきではない。夢破れた大人が寂寞を背負い、安楽の地を求めて彷徨い、辿り着いた先。そんな物語をもった者へ、一瞬の安息と覚悟の場としての旅の宿にして欲しい。ただ、ただ切にそう願うばかりである。

 

※本当にそういう気分になります。一般的に観光目的のお宿ではありませんが、そんな想像と妄想をあわせて楽しむことができる方には最高におすすめできる宿でした!

 

ホテルワカマツ

TEL:0153-82-2153

Adress:北海道標津郡標津町南3条東1丁目1−20

MAP:Google Map参照

ABOUT ME
佐崎 リョウ
佐崎 リョウ
北海道 道東地方の観光振興に従事しながら、独自に道東各地の取材を続ける観光ライター。道東を北へ南へ転々としながら、大自然の中でのびのびと生きている生粋の道東民。「流氷に乗ってアザラシと一緒に流れてきたのを拾った子」と母に言われて育ちました。